■ 未完成交響曲第4番 ―悲しい別れ― ■
――――バーハラ城・裏
あまり人に知られてはいない事ではあったが…バーハラ城の裏手には小さな花畑があった。
余人の知らぬ場所…そう、城の裏側を見る者など、そう多くは無いだろう。
其の中で花畑に何か感じる者となればなおさら…である。
事実、ここの存在を知っていてなおかつ足を踏み入れたのはたった二人。
そして其の内の一人は…もはやココにくる事は無い。もう…この世にはいないのだから。
そんなわけで…ここに来る者は一人をおいて他に無く…
たとえ一人の少女がここで悲しげな表情を浮かべていたとしても…誰も気付く事は無い。
何故なら…その少女だけなのだから。ココを知っているのは。
「変わらないのはここだけね…」
呟く少女。ある種、絵になる光景なのかもしれなかったが…
どんなに優秀な画家でも今の少女の表情を絵にする事は不可能だろう。
それほどまでに少女の表情は深い悲しみに満ちていた。
一体この花畑に何があるというのだろうか…。
少女の名はユリア。薄紫の髪が美しい悲しみに満ちた少女である。
「ユリウス兄様…あの頃は幸せでしたよね…。でも…貴方も。逝ってしまった…」
幼い頃にでも想いを馳せているのだろうか。ユリウスがまだ「ロプトウス」で無かった頃。
彼女達はよくココに来ていたのだ。そう…ココを知るもう一人の人物。
それがユリウスだった。しかし…彼はもういないのだ…。
彼だけではない。彼女が幸せだった頃の彼女に近しい人物…
アルヴィス…ディアドラ…ついでにマンフロイ。彼らも、もういない。
ここに来ると彼らのことも思い出す…(マンフロイでさえも)いや、思い出してしまう…と言った方が適切だろうか。
幸せだった頃の面影を残すのはもはやココだけだから…。
「皆…逝ってしまった…。私に深く関わった人は皆…」
ユリアはそれが…悲しかった。自分の所為で皆が死んだように感じられて。
実際そうなのだろう…とユリアは思う。自分がいなければ死なずにすんだハズだ…。
…だからユリアは誰かと深く関わる事を恐れた。関わる事でまた誰かが死ぬと思ったから。
必要以上に話さない…表情も変えない。そうやって他者との接触を必要以上に避けた。
辛くても悲しくても。独りで居続けようとした。だが…彼女は独りになれなかった。
多くの者は…彼女の思惑どおり彼女を避けた。しかし…そんな中、ユリアを避けるどころか優しく接してくる者達も居た。ラナとセリス。その二人。
突き放す事も出来たのだろう。だが、そうは出来なかった。
(最初は…煩わしいと思っていたのに…今は…)
二人の存在は大きなものとなっていた。もう…独りにはなりたくなかった。
(でも…二人の事を思うなら私は消えるべきなのに…)
本当はバーハラからも去るべきだった…とユリアは思う。
結局、去る事は出来なかったのだが。ここにはラナがいる…セリスもいる。
それを思うとユリアはここから去ることができなかった。
少しでも長くいたかったから。たとえいつかは離れ離れになるのだとしても。
「別れは…もう、嫌です…」
呟いた言葉はやってきた風にさらわれて…何処へともなく流れて行った…






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