■ 君が望む永遠・中 ■ |
――ヴェルトマー城・中庭 ユリアと別れた後、アーサーは宿舎へと向かっていた。 冷たい夜風に吹かれながら、彼は宿舎へと続く中庭を歩く。 「随分と…冷たい風だな」 苦笑混じりにそう呟くと、彼は懐から1冊の魔道書を取り出した。 魔道書の名は「フォルセティ」。古代、神々が人に授けたと言われる「伝説の武器」の1つ。 その持ち主は風を統べる事ができると言われている。 事実、アーサーは風をある程度、自在に操る事ができる。 そして…他者よりも風を感じる事ができる。 彼曰く、「風は色々な表情を持っているし、色々な事を教えてくれる」と。 そんな彼を苦笑させた夜風は…彼に何を感じさせたのだろう? 「フォルセティ…お前の望む通りには…」 ――同時刻、ヴェルトマー城・テラス 「…」 1人テラスに残されたユリアは、何をするわけでもなく風に当たっていた。 今更宴に戻る気にもなれなかったし、アーサーがいないのなら行っても楽しくはないだろうから。 かといって、アーサーを追う気にもなれなかった。自分を避けるような態度…それは「お前と一緒にはいたくない」、そう告げているように思われたから。 だから…ユリアは追わなかった。もし追って…また避けられるのは…どうしようもなく怖い。 「…あなたも私から去っていくのね…」 恨みがましく、そう呟いてみる。その想いが届く事はないのだが。 明日は…ユリウスと戦わなければならない。正直なところ、ユリアは…不安で仕方なかった。 ユリウスはロプトウスに操られている…そう、彼女は思っているが、だからといって戦いを避けるわけにはいかないだろう。 だが…やはり実の兄とは戦いたくはない。それが必要な事であったとしても。 だから…アーサーに後押ししてもらいたかったのだ。どんな言葉でだっていい。たった一言…言ってほしかったのだ。 身勝手な話なのはわかっている。しかし、感情は理屈で割り切れるものではない。 そんなことを考えるうちに、彼女の心はどんどん暗い方向に進んでいく… (アーサーは私の事なんてどうでも良いんだ…。そうよね、私が死のうが生きようがあの人には関係ないし…。 少し優しくされたからって勝手に勘違いして…) …こうなるともはや被害妄想以外の何物でもない。 だが…悲しいかな、今のユリアに冷静な判断力は残っていない。 「私なんて…必要ないのよね…でも…私が死んだら…悲しんでくれるかな…?」 そう呟くとユリアは幽鬼のような表情で歩き出した。 一体、どこへ行こうというのだろうか? |
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